近年、ハラスメントや不当な差別など、さまざまな人権問題が社会的に問題視され、メディアで大きく取り上げられています。また、SDGsを取り組むうえでも人権の尊重は重要であり、企業には、企業の責任として人権を尊重することが求められています。
<目次>
人権デューディリジェンスとは
人権に関連した言葉で、最近「人権デューディリジェンス」という言葉を見聞きするようになりました。
人権デューディリジェンス(Human Rights Due Diligence)とは、企業が事業活動において、人権に関するリスクがあるか調べ、リスクを評価・分析し、人権侵害を予防・是正するプロセスのことです。
国際社会における人権に関する動き
経済のグローバル化が進む中で、企業活動において強制労働や児童労働などが問題視されるようになり、人権の尊重が注目されるようになりました。
こうした状況により、国際社会では企業と人権に関する基準やガイドラインが定められるようになり、2011年に国連で「ビジネスと人権に関する指導原則」が採択されました。この指導原則は、「人権を保護する国家の義務」、「人権を尊重する企業の責任」、「救済へのアクセス」の3つの柱で構成され、企業には人権を尊重する責任があることが明確化されました。また、ビジネスと人権に関する指導原則は、国ごとに行動計画を作成することを推奨しており、世界各国における人権に関する取り組みや行動に大きな影響を与えています。
出典:法務省「今企業に求められる「ビジネスと人権」への対応 詳細版」
出典:外務省「ビジネスと人権に関する指導原則」
企業に求められること
日本では、2020年に「『ビジネスと人権』に関する行動計画(2020-2025)」が公表されました。この行動計画では、「ビジネスと人権」に関して、今後政府が取り組む施策や、企業活動における人権尊重の促進を図ることへの期待などが表明されています。
企業に求められることー分野別行動計画―
ア. 労働(ディーセント・ワークの促進等)
イ. 子どもの権利の保護・促進
ウ. 新しい技術の発展に伴う人権
エ. 消費者の権利・役割
オ. 法の下の平等(障害者、女性、性的指向・性自認等)
カ. 外国人材の受入れ・共生
2022年9月には「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」が策定されました。このガイドラインは、企業に求められる人権尊重の取り組みに関して、具体的にわかりやすく解説し、企業のより深い理解と取り組みの促進を目的として作られています。
人権に関するリスク
人権に関するリスクとは、企業の事業活動により、従業員、取引先・取引先の従業員、顧客、事業活動が行われる地域住民などが人権に関する負の影響を受けるリスクのことです。
企業がこの人権に関するリスクを放置すると、株価暴落や訴訟などのさまざまなリスクが生じ、結果的に企業にとって大きな損失に繋がる可能性もあります。
では、人権に関するリスクとは、具体的にどのようなものがあるのでしょうか。リスクは多岐に渡り、以下のようなことが挙げられます。
- 賃金の不足・未払、生活賃金
- 過剰・不当な労働時間
- 労働安全性
- 社会保障を受ける権利
- パワーハラスメント(パワハラ)
- セクシュアルハラスメント(セクハラ)
- マタニティハラスメント/パタニティハラスメント
- 介護ハラスメント(ケアハラスメント)
- 強制的な労働
- 居住移転の自由
- 結社の自由
- 外国人労働者の権利
- 児童労働
- テクノロジー・AIに関する人権問題
- プライバシーの権利
- 消費者の安全と知る権利
- 差別
- ジェンダー(性的マイノリティを含む)に関する人権問題
- 表現の自由
- 先住民族・地域住民の権利
- 環境、気候変動に関する人権問題
- 知的財産権
- 賄賂・腐敗
- サプライチェーン上の人権問題
- 救済へアクセスする権利
抜粋:法務省「今企業に求められる「ビジネスと人権」への対応 詳細版」
企業がこれらの人権リスクを放置すると、結果として企業にとっても様々なリスクが生じます。適切にリスクを把握・特定し、予防し、実際に人権侵害が起きてしまった場合は是正・救済のために包括的な対応をする必要があります。
人権に関する取り組み
企業が人権に関するリスクを防止するために取り組むべき施策を紹介します。
① 方針によるコミットメント
- 人権方針の策定
人権への負の影響を防止するための取り組みとして、まず自社の人権方針(人権ポリシー)を策定します。そして企業は、この方針を関係者に周知する必要があります。
指導原則では、人権方針が満たすべき要件として、以下の5つを示しています。
【人権方針の策定に必要な5つの要件】
- 企業のトップが承認していること
- 社の内外から専門的な助言を得ていること
- 従業員、取引先及び、製品やサービス等に直接関与する関係者に対する人権配慮への期待を明記すること
- 一般公開され、全ての従業員や取引先、出資者、その他の関係者に向けて周知されていること
- 企業全体の事業方針や手続に反映されていること
② 人権デューディリジェンスの実施
企業活動による人権への負の影響を調査・分析をし、負の影響の予防・軽減をするために教育・研修による啓発活動や、社内制度・環境整備、サプライチェーンの管理等を実施します。そして、状況を監視しつつ、実施状況を外部に公開します。
企業の規模や、業種等に応じて、人権デューディリジェンスのプロセスの導入が推奨されていますが、主な実施内容と流れは、次のとおりです。
- 人権への影響評価
人権への負の影響の特定・分析・評価を行います。
- 教育・研修の実施
人権に関する負の影響の予防・軽減をするために教育・研修による啓発活動を行います。
(ハラスメント研修、ダイバーシティ研修、サプライチェーン研修など)
- 社内制度・社内環境の整備
人権への負の影響に対する要望・是正措置として、社内制度や社内環境の整備も必要です。
(人事制度、評価制度、働き方の環境など)
- サプライチェーンの管理
取引先との取引関係においても人権への負の影響を要望・是正する必要があります。
(取引先や関係者へのアンケート、サプライヤー行動規範など)
- モニタリング(追跡調査)の実施
予防・是正措置を講じても、効果を測れなければ意味がありません。実施した施策の実効性を確認し、継続的に改善を行っていくことが重要です。
(勤務状況の確認、従業員・取引先アンケート、意見交換、ストレスチェックなど)
- 外部への情報公開
企業が人権に関するリスクに対して、どのような取り組みをしているのか、外部へ情報公開を適切に行う責任もあります。
(人権報告書・人権に関する評価結果に関する報告書などの情報公開)
③ 救済措置
- 苦情処理のメカニズムの整備
指導原則では、人権に対する負の影響を引き起こしてしまった場合、企業は是正・回復に努め、苦情処理メカニズムの整備が求められます。
苦情処理メカニズムを構築するにあたって、指導原則では実効性を保つために以下の8つの要件を満たす必要があるとされています。
【苦情処理メカニズムに求められる8つの要件】
- 正当性
- 利用可能性
- 予測可能性
- 公平性
- 透明性
- 権利適合性
- 持続的な学習源
- 関与(エンゲージメント)と対話に基づくこと
出典:法務省「今企業に求められる「ビジネスと人権」への対応 詳細版」
まとめ
近年、世界的に人権に関して重要視され、国内外の企業において人権に関する取り組みが広がっています。また、ESG投資やSDGsの観点においても人権に関する取り組みは重要な要素となっています。人権に関する取り組みは、売上の増加や企業価値の向上、人材採用力の強化など、企業にとって様々なメリットがあります。人権の尊重が持続可能な企業となり、企業価値の向上に繋がり、人権を尊重することが企業活動においても重要です。
最終更新日: 2024-08-23