日本の高齢化社会に向かうひとつの節目として、団塊世代が75歳以上に向かう2025年を目指した取組が盛んに行われるようになってきました。
介護報酬改定では、介護業界の冷え込みを改善すると共に、盛り上げようとする施策が次々と打ち出されています。
2021年2月に行われた介護報酬改定では、無資格の介護職員に対し「認知症介護基礎研修」が義務付けられました。
現在、介護に無資格で当たられている方は、2024年4月までの経過措置が設けられていますが、早めにインターネットを利用した「eラーニング研修」で資格取得することをおすすめします。
また、無資格者への資格を義務づけると共に、介護業界の職場改善なども絡めた、介護職員の報酬アップ施策が打ち出されています。
2022年4月からスタートする新たな処遇改善加算によって、いま無資格の方も資格を取得することで報酬アップが期待できます。
今回は、「認知症介護基礎研修の義務化」と「介護報酬改定」についてお伝えします。
無資格で介護に当たられている方で、まだ研修を受講されていない方は必見です!
認知症介護基礎研修の義務化
2021年2月に行われた介護報酬改定の中で、「地域包括ケアシステムの推進」で介護に携わる無資格者への「認知症介護基礎研修」が義務付けられました。
認知症介護基礎研修の義務化は、2021年4月からスタートしていますが、現在無資格で介護に当たられている方には、3年間の経過措置が設けられています。時間はまだあるものの早めの受講をおすすめします。
2024年4月から介護職として就職される方は、新規・中途問わず1年以内に「認知症介護基礎研修」の受講・資格取得が必須になります。
無資格者への研修の義務化の背景
高齢者の人口が年々増える中で、もうひとつの課題として挙げられるのが、75歳を過ぎた辺りから増加傾向にある認知症の高齢者数です。
内閣府「平成29年度高齢者白書」によると、2012年の認知症高齢者数は約462万人(7人に1人)でしたが、団塊世代が75歳以上に向かう2025年には、その数が約675万人(5人に1人)に上ると推測されています。
2025年の日本では、「国民4人に1人が75歳以上になる」と言われていることから、2021年の介護報酬改定は、4年後に迫りくる2025年に向けた取り組みと言えます。
高齢化2つの波(2025年、2040年)
これからの日本の高齢者人口の推移は、大きく2つの波があります。
- 団塊世代が75歳以上に向かう2025年。
- 団塊世代のジュニアたちが75歳以上に向かう2040年です。
2025年、2040年と2つの高齢者人口の波を迎える日本の課題としてあるのが、働き手人口が減少していく中で、「高齢者を支えて行く必要性」と「高齢者が生きやすい社会を目指す必要性」が挙げられます。
地域包括ケアシステムとは
地域包括ケアシステムは、高齢者の支援を目的とし、高齢者が住む地域での「医療・介護・住まい・生活支援・介護予防など」総合的なサービスを切れ目なく提供する取り組みを意味しています。
2025年に向けた取組は、介護におけるひとつの節目として、次に訪れる2040年の波を見据えながら「地域包括ケアシステム」の実現を目指しています。
認知症介護基礎研修の目的
地域包括ケアシステムの課題として挙げられるのが、質のよい介護サービスを提供できる人材の確保です。
認知症介護基礎研修の目的は、無資格で介護に従事している方の認知症に対する理解と基本的な知識・技術・考え方を習得してもらうことで、より質の良い介護サービスの提供を目指すと共に、介護業界のベースアップを図ることを目的としています。
無資格者の資格取得メリット
無資格で介護に当たられている方の中には、介護サービスに就く前の思いとは裏腹に、それ以上に高齢者との人間関係や職場での人間関係に悩んだり、介護に対する不安が大きくなっている方も少なくないのではないでしょうか。
その原因の多くは、高齢者に対する知識不足があげられます。高齢者をよく理解することで介護に対する不安が減少し、今よりも働き甲斐に繋げやすくなると言えます。
そのために必要なのが資格の取得です。
これからの時代は高齢化によって、介護職の需要が更に高まっていくことが予測されるので、早めの資格取得をおすすめします。資格取得することで、報酬アップ・キャリアアップに繋げやすい環境とも言えます。
また、常に人材不足の問題を抱えている介護業界ですが、その背景には「少子高齢化」だけでなく、介護業界の中での「人材獲得競争」が激しいことも挙げられます。
要するに、資格を得てスキルアップすることで、条件の良い介護職に就くことは可能なのです。
認知症介護基礎研修について
認知症介護基礎研修の申し込みは、個人では出来ません。所属する介護施設や事業所の責任者を通す必要があります。
責任者の方は、各都道府県の自治体を通して申し込みを行う必要があるため、詳細情報については自治体のホームページをチェックしてみてください。
研修対象者
介護サービス施設や事業所・介護保険施設等で、経験年数は問わず直接介護に携わっている無資格者が対象です。
研修内容
研修は「講義」と「演習」からなり、どちらも所要時間3時間ほどです。6時間ほどで修了する研修内容になっていることから、未経験・無資格の方でも受けやすいのではないでしょうか。
とは言っても、忙しい業務の合間をぬって研修を受けるとなると、時間がない!という方も多いと思います。
認知介護基礎研修は、従来の時間と場所が決められた「集合型研修」だけでなく、インターネットを使った「eラーニング研修」を取り入れている自治体も多くあります。
時間・場所を選ばず、インターネットとデバイスさえあれば研修可能な「eラーニング」での研修がおすすめです。
研修カリキュラム
カリキュラムのテーマは『認知症の人の理解と対応の基本』です。
【講義】
- 認知症の人を取り巻く現状
- 認知症に対する理解と基本的な知識
- 認知症に対する基本的な技能
【演習】
- 認知症ケアの実践上の注意 など
認知症介護基礎研修は、チームケアを実施する上での基本的な認知症ケア、サービス提供ができることを目指します。
研修スタイル
研修スタイルは、各自治体によって異なっています。
- (全)eラーニング
- (全)集合研修
1つの研修スタイルで「講義」「演習」を行うものもあれば、下記の研修スタイルを組み合わせた、ブレンディッドラーニングで行うスタイルもあります。
- eラーニング(講義)
- 集合研修(演習)
- オンデマンド(zoom演習)
研修自体は、介護の未経験の方や無資格の方のための研修なので、分かりやすい内容になっています。修了後の試験もなく、全カリキュラムを修了することで資格を取得することができます。
研修費用
研修費用も各都道府県の主催の違いから異なっています。金額の目安は、無料〜¥5,000(税込み)です。
- 無料
- ¥1,080(税込み):テキスト代
- ¥5,000(税込み):テキスト代+受講料
- ¥3,000(税込み):eラーニング
テキストは、事前に購入準備が必要な場合もあります。
eラーニング研修資格取得
コロナ禍にある現在、集合型の研修に躊躇される方も少なくないと思います。
そんな方におすすめするのが、「eラーニング研修」です。
社会福祉法人 東北福祉会認知症介護研究・研修仙台センターが主催しています。
受講料3,000円(税込み)の自治体は以下の通りです。
- 都道府県
福島県・栃木県・茨城県・千葉県・東京都・神奈川県・長野県・静岡県・山梨県・新潟県・石川県・福井県・京都府・大阪府・兵庫県・鳥取県・広島県・徳島県・香川県・福岡県・佐賀県・熊本県・宮崎県・鹿児島県
- 市
仙台市・新潟市・千葉市・横浜市・大阪市・神戸市・広島市・熊本市
上記の「対象自治体」以外の方で研修を希望される方は、最寄りの自治体ホームページで「認知症介護基礎研修」をチェックしてみてください。
eラーニング研修のメリット
「eラーニング研修」はパソコンだけでなく、スマートデバイス(iPhone・スマートフォン・ipadなど)を利用して、いつでも・どこでも・空き時間を利用して研修を行うことができます。
また、講師による研修とは異なり「eラーニング」の魅力は
- 研修内容にブレがない
- 集中して知識が得られる点 です。
パソコン画面を見ながら研修するので、知識を得るための導線があるため集合研修より理解しやすいメリットがあります。
また、eラーニングでは、各カリキュラムごとに小テストが用意されているので、内容をしっかり理解・確認しながら研修を進めることができます。
更に、研修を終えた後も不明点・疑問などがあれば繰り返し学べるので、研修後の不安も解消することが可能です。
eラーニング研修での注意点
スマートデバイスを使って研修を行うeラーニングで注意するポイントは、動画コンテンツなどが含まれているため、Wi-Fiのある環境の下で利用する必要があります。
令和3年度「介護報酬改定」
出典先:「令和3年度介護報酬改定の主な事項について」(厚生労働省)
2021年2月、第11回目の定期「介護報酬改定」が行われました。
その内容は5つの柱で構成されています。
- 感染症や災害への対応強化
- 地域包括ケアシステムの推進
- 自立支援・重度化防止の取組の推進
- 介護人材の確保・介護現場の革新
- 制度の安定性・持続可能性の確保
認知症介護基礎研修の義務化は、「2.地域包括ケアシステムの推進」の中で義務付けられています。
また、介護職員への報酬アップに関しては、「4. 介護人材の確保・介護現場の革新」に盛り込まれています。
介護報酬改定は、国が定める介護保険サービスの公定価格の見直しのことを言い、通常では定期的な見直しは3年毎に行われています。(医療の公定価格は2年毎)
介護報酬の公定価格で考慮されるポイントは、以下の3つです。
- 介護事業所の経営状況
- 高齢者を取り巻く環境
- 世の中の物価水準
介護報酬改定は定期的なものとは別に、特例として消費税増税などによって行われることがあります。
ここ最近では、定期的な改定が2021年2月に行われた後、2022年2月には臨時で介護報酬改定が行われています。
2025年を見据え、介護業界の改善に向けた取り組みが早急に行われていることが分かります。
介護業界の改善とは?
世間の多くの人が持つ介護職のイメージには、「給料が安く、身体的・精神的にキツイ」というものが根強くあります。
そうした中で厚生労働省によると、団塊世代が75歳以上に向かう2025年に必要な介護職員の数は、約245万人と言われています。
そこで、介護業界の人材不足を打破する為には、介護職への偏見をなくし、目指す人を増やすと共に、現在介護の現場で働いている人たちの定着率を上げる必要があるのです。
そうしたことから政府は、介護業界を盛り立てるための施策として、介護職の給料アップを図ると共に、介護に携わる人たちのスキルアップも目指しています。
介護職の報酬アップ政策のひとつとして、2022年10月から新たな「介護職員等ベースアップ等支援加算」が挙げられます。
介護職員等ベースアップ等支援加算のしくみ
これは、2021年2月に行われた介護報酬改定で決まった「介護職員処遇改善加算」を引き継ぎ、10月以降も継続した介護職への報酬アップを可能にするための取組みです。名前を「介護職員等ベースアップ等支援加算」に改めると同時に、介護報酬に組み込まれる形になりました。
報酬アップするための条件
「介護職員等ベースアップ等支援加算」によって2022年10月以降、介護職員を対象に収入3%程度(月額平均9,000円相当)が引き上げられることになります。
ただ、この報酬引き上げには条件があります。
「処遇改善加算(Ⅰ)~(Ⅲ)いずれかを取得していること」とあるように、処遇改善加算の中の条件には、「キャリアパス要件」と「職場環境等要件」を満たすことが挙げられています。
介護職員処遇改善加算:「キャリアパス要件」と「職場環境等要件」
【キャリアパス要件】
- 職位・職責・職務内容に応じた任用要件と賃金体系を整備すること
- 資質向上のための計画を策定して、研修の実施または、研修の機会を確保すること
- 経験若しくは資格等に応じて、昇給する仕組みまたは、一定の基準に基づき定期に昇給を判定する仕組みを設けること
※ 就業規則等の明確な書面での整備・全ての介護職員への周知を含む。
【職場環境等要件】
賃金改善を除く、職場環境等の改善
この要件で分かる通り、報酬アップするには個人としての頑張りだけではなく、介護事業所と一体となって介護サービスへの改善に取組む必要があります。
つまり、介護職に対して求められていることは、ひとりひとりの働く姿勢として、受動的な働き方から能動的な働き方へ変えていくことがポイントになります。
今まで無資格で介護に携わってきた方も、これからは積極的に資格を取得してキャリアアップを目指す必要があるわけです。
まとめ
これから益々高齢化が進んで行く日本では、高齢化社会を支えるための人材が必要不可欠になります。いま、介護職の待遇改善策が進められる中で、無資格で介護に当たられている方の資格取得やキャリアアップも求められています。
国を挙げて介護業界を盛り上げようとする取組が行われいる今!『認知症介護基礎研修』をきっかけに、はじめて資格取得する方も「eラーニング」で効率よく研修を行い、報酬アップに繋げてみてはいかがでしょうか。
最終更新日: 2023-07-05